2016年07月04日

Report「2020年東京五輪に希望を持つな」




開口一番、「2020年東京五輪に対しては“希望を持つな”」
そんな衝撃的な言葉で始まった、スポーツジャーナリスト谷口源太郎さんのお話。

2014年9月20日に文京区民センターで開催された、
第4回希望政策フォーラム「どうする!?東京オリンピック」

東北被災地を切り捨てた「復興オリンピック」の欺瞞。
「平和の祭典」とかけ離れたIOCの内情。
「国民統合」の道具とされる、森喜朗元首相率いる東京オリンピックの危うさ……。
ブエノスアイレスでのIOC総会での、あの「アンダーコントロール」発言はいかにして出てきたのか。

オリンピックに興味がない、では済まされない。
必読の内容です。


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谷口源太郎

スポーツジャーナリスト。新聞、雑誌、ラジオ、テレビにて、スポーツを社会的視点からとらえた批評を手がける。主著に、『冠スポーツの内幕 スポーツイベントを狙え』(日本経済新聞社)『日の丸とオリンピック』(文藝春秋社)。マスコミ9条の会呼びかけ人。

*   *   *

「2020年東京五輪に対しては“希望を持つな”」。その一言につきます。これまでのオリンピックの中で最悪のオリンピックです。

 それはなぜか──。オリンピリズム、オリンピックムーブメント(オリンピック運動)の最大の目的として掲げられているのは、「人間の尊厳を大切にすること」「平和な社会を推進すること」です。

 ところが、IOC(国際オリンピック委員会)が今度の2020年オリンピックの開催地として東京を選んだということは、その原則をIOC自らが根底から覆したということです。

 ご存じのように、アルゼンチンのブエノスアイレスで開かれたIOC総会でのプレゼンテーションで、安倍総理はとんでもないウソをつきました。東電福島第一原子力発電所事故、レベル7の原発事故による放射能汚染、汚染水漏水の深刻な事態に対して、「状況は、すべてコントロールされている(under control)」と言いました。すべて制御されていると。

 放射能で汚染された水は海にも流されており、いまも放射能の汚染は拡大しています。これは国内外に対するまさに虚偽発言です。この一言がIOC委員たちにウケて(決め手となって)東京に決まったと報道されましたが、これは政府関係者の中でもきちんと議論された言葉ではありませんでした。

 IOCと東京招致委は完全に結託しています。
 金額こそは、前回(2016年)の失敗した招致活動にかけた経費150億円より少し減って、今回は75億円ですが、何に使っているのかそれだけの招致活動費用をかけています。

 IOCの委員には旧皇族の竹田恆和(2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会理事)が、メンバーとして入っています。ヨーロッパのIOC委員の中には王室関係の人がいますが、彼らというのは一般の委員には会いもしないのですが、元宮家というだけで竹田氏とは無条件に握手をするからです。これもJOCのひとつの作戦なわけです。

 IOC、そして各国委員の体質を調査することが必要です。あるJOC(日本オリンピック委員会)の幹部は、スイスのローザンヌに家を借りて、夫婦で1年間を過ごしました。徹底的にIOC本部に出入りをするためです。

 今回のプレゼンテーションにあたり、IOC委員たちが日本(JOC)に最も強調してアドバイスしたのが、福島原発事故についてでした。そんなに簡単にはいかないと。IOCの委員たちは、英BBCが連日伝える、放射能汚染水漏出問題についての的確で厳しい報道見ていますので、福島の事故による放射能汚染がいかに深刻な状況かをわかっています。ヨーロッパでは、チェルノブイリの事故以来の原発のビッグニュースです。

 ですので、IOCの中には、福島原発事故に対して拒否反応が浸透しています。これはヤバいと。

 そこであるIOC委員が東京招致委員会関係者に、プレゼンテーションでこの問題について首相クラスがきちんとコメントしなければ、BBCは最後の最後まで追及し続けるだろう、収まらないだろうといったことを強くアドバイスしました。そのような忠告を受けて、JOCは急遽、首相官邸に、放射能汚染水漏出問題について強く打ち出してほしいと依頼。そこで官邸から会見の文案ができあがってきて、その最終原稿がサンクトペルブルクからブエノスアイレスへ向かう安倍首相に届けられ、それをそのまま安倍首相が読んだということでした。「アンダーコントロール」(放射能はコントロールされている)という一言が付け加えられて。

 IOCは、福島第一原発の事故、放射能汚染問題がいかに深刻かということは十分にわかっています。それを承知のうえで見て見ぬフリをしたということです。一国の総理が言い切ったのだから大丈夫だろうと、そうIOCは済ませてしまったわけです。
 「オリンピックはいいものだ」といまだに思っている人がいるかもしれませんが、とんでもないです。

 では、オリンピックを主催するIOCっていったい何でしょう? IOCというのは、2000年11月1日になってようやく、スイス連邦評議会がNGO(非政府組織)として承認した、ただそれだけの組織です。100年続くオリンピックの歴史の中で、たったの十数年です。

 しかも非営利というのはウソですよね、いまやIOCは大企業です。放送権、スポンサー権、それに、招致活動国内オリンピック委員会が中心となってするわけですが、そこからのあがりも莫大なものです。スポンサー料の何パーセントかをピンハネしています。

 オリンピックの理想とする根本原則などはIOCの頭の中にはありませんし、東京招致委員会の中にもありません。福島の事故による放射能汚染は本当に深刻な事態であり、収束の目処はたっていません。こんな認識の元で招致にのめりこんでいった。一国の首相が明確なコメントを出すことにで批判的な認識をそらせ、ということで、あのパフォーマンスになった。これひとつとっても、どれほどの欺瞞の中で東京が選ばれていったかということがわかります。

 では、開催地というのはどのように選ぶのでしょうか。なぜ東京に絞り込んでいったかといったら、それは経済、財政的な理由からです。IOCの委員の頭の中には、オリンピックの原則なんて、はなからありません。

 もしオリンピック、「人間の尊厳を大切にする社会」ということを認識するのであれば、いまの日本列島というのは、それを阻害する、大いに人間の命というものを危うくしている社会であると言えます。

 福島の放射能汚染は、本当に深刻な事態です。その福島から200キロしか離れていない東京でオリンピックを開く。そんな認識もないままの招致です。

 最後の最後に、一国の首相が宣言することで、BBCの報道から意識をそらせる、そういう企みを受け入れる。この招致のいきさつ一つとっても、どれだけ欺瞞や偽装や虚構の中で、東京オリンピックというものが決められていったかがわかります。

 オリンピックに向けて動き出しますが、その長についたのが森喜朗元首相です。天皇を中心にした「神の国」をつくると言っているような人が招致のトップ、大会組織委員会の会長で、首相の安倍にしても右翼もいいところです。

 憲法を改正し、戦争に向けて、いかに一歩一歩近づいていくか。その動きはとどまることがありません。明らかに東京オリンピックというのは、それに向けた国民統合のための有効な手段です。他に変えられない大きな力をそこに託して、オールジャパン体制でオリンピックにのぞむということです。

 森はラグビー協会の会長でもありますが、2019年のラグビーワールドカップも日本に招致しました。(※日本での開催が決まっただけで、まだ東京と決まったわけではない!)ラグビー人口もどんどん減っていて、人気も落ちている中で、何でまたラグビーのワールドカップをわざわざ日本で開くのか。

 こういうビッグイベントを呼ぶことで何を考えるか。それはやはり経済、要するにハコモノづくりをきっかけにした経済です。最大の狙いは国立霞ヶ丘競技場を建て替えることです。ラグビーワールドカップの時の準決勝と決勝は、国際ラグビー協会の規定で8万人収容規模のスタジアムで開くこととされています。

 したがって、今ある国立競技場には8万人も入らないので、それを壊して8万人収容可能な規模のものに建て替えなければならなくなる。それが森喜朗の狙いです。

 しかし森喜朗がいくら元総理だからといって、ラグビーワールドカップだけのために国立競技場を建て替えるといっても誰も納得しませんが、オリンピックのためといえば口実になる。オリンピックのメインスタジアムとして作り替えるんだと。2019年ラグビーワールドカップを成功させ、さらに翌年のオリンピックのリーダーシップを取って、オールジャパンの国民統合体制で成功させる。これが彼らが企んでいる大きな流れです。

 当初の計画を見直して、経費を少しは削ったなどと言っていますが、そんな問題ではありません。このオリンピックは止めなければいけない、何がなんでもストップさせなければなりません。さもなければ、この日本列島を引っ張っていこうとする危険な大きな流れを加速させることになります。

 ではどのようにして、その動きを加速させていくか。
 今年はじめて、オリンピック・パラリンピックムーブメントを進めるための関連事業予算が20数億円つきました。主な事業は例えば、オリンピック・パラリンピックに出場経験のある選手が学校を訪ねて子どもたちに話をする。オリンピック選手たちを芸能人のような扱いで、どんどんいろいろなところへ派遣していく。

 しかし、選手たちはオリンピックの理念を分かっているのでしょうか? そんなの知りません。学校を訪れて、子どもたちにオリンピックの理想を語れと言われても、何にもわからない。これから講習会を開いて、選手たちに改めてオリンピックの理念を教えていくということです。つまり、オリンピック選手はこれまで、オリンピックのことなんか何も知らずに、日の丸つけてがんばれって言われて、出場していただけというわけですね。
 これまで、オリンピックの理念なんていうものは理解されていませんでした。そのためのムーブメントがなかったからで、それは当然のことです。
 この偽装や虚構に満ちたオリンピック招致、その虚偽の現実をさておいて、子どもたちにオリンピック精神を教えろということだそうです。

 東京都教育委員会は300校の公立小中・都立高校を「オリンピック教育推進校」と指定し、子どもたちにオリンピックの縊死や理念を教えることを決めました。しかし、どうやって教えるのでしょう。事態はこんなに深刻である。そのうえでのオリンピックって何だ? と子どもたち自らが考えることを投げかける授業はできるのか。先生たちも悩むと思います。

 子どもたちも動員して、老いも若きも「オールジャパン体制」で文句を言わせない雰囲気をつくる。国家統合のためのさまざまな国家主義的な直接的な活動が露骨に行われるようになると思います。

 そして、その国家の目的を果たすための、資本への貢献にはすさまじいものがあります。すでに建設ラッシュは始まっています。

 国と資本がオリンピックを口実に手を組み、利益を追求する。その影響で一般民衆はどうなるか。人間として、尊厳を大事にして生きていくということができない、ますます生きにくい社会になっていきます。東京オリンピックは、私たちの生活・生存そのものにさらに厳しい条件を突きつけてくるのではないかと危惧しています。

 ぜひ、「オリンピックはいいものだ」という幻想から抜けだし、根本的に問題を継続して検証・追究していただきたいと思います。



──IOCは日本の原発の危険性に目を瞑ったというお話でした。2020年の段階では、危険性は当然残ると思います。他にも東京も温暖化していると言われていて、夏の暑さは耐えられないほどです。アスリートは死んでしまうのではないかと本気で心配します。あるいは地震が近い将来あるかもしれません。東京で開くことの危険度というのは、そうそう目を瞑れるものではないと思いますが、IOCはそこを含めてまで無責任状態と判断していいのでしょうか?

 の質問に答えて。

 そうですね。IOCのトーマス・バッハ会長は東京に決まってから、はじめて東京を訪れました。来日するときに、東京の招致委員会を通して何を言ったか。「何しろ日本の企業をできるだけ多く集めてくれ」ただそれだけでした。さっそく電通が動いて、100社以上の企業でバッハさんをお迎えしました。彼は大満足でした。

 東京オリンピックをこれだけ多くの日本の企業がバックアップしてくれるということで。なおかつ、IOCのビジネスの世界共通の独占的権利を与える「TOPプログラム」というものがあります。これはIOCの重要な財源の一つとなっていますが、それにブリジストンが名乗りをあげたので、これでもバッハは大満足です。

 福島はどうなっているのか、放射能汚染はどうなっているかということになどは、一言も何の興味も示しませんでした。

 イギリスの女性のスポーツ社会学者で素晴らしい方がいます。明治大学に呼ばれていらしたときに会いする機会がありました。こんな皮肉を言っていました。「あのプレゼンテーションでの“おもてなし"というのは、放射能と大地震で私たちをおもてなしをするということなのね」と、かなり痛烈に言っていました。こんな状態で果たしてヨーロッパの選手たちが東京に来たいと思うのか。これは選手たちの問題でもあります。

 逆に言うと、まだ福島の放射能汚染問題ひとつとっても、世界に知られていないことはまだまだあります。

 東京オリンピックに少しでも関心のある人たちに向けて、日本から発信しなくてはならないのは、この危険きわまりない深刻な事態というものが、2020年には収まっているわけはないということ。さらに深刻になっている可能性があるという情報を、発信しなくてはなりません。

 IOCに対しても、「こんなところでオリンピックなんかやれると思っているのか!」と突きつけていく必要があります。

 国内でも、もっと議論を重ねていかないとダメです。メディアは一切タブー扱いにしていて、オリンピックにどんな問題があるのかということは、圧倒的に知られていません。その認識を共有できるような場を積極的に作っていかないといけないと思います。


(2014年9月20日、
第4回希望政策フォーラム「どうする?東京オリンピック」より抜粋)
http://twitcasting.tv/teamutsuken/movie/101549358

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2016年07月03日

Report「原発とオリンピック」


 今年の1月、2020年東京五輪を率いる森喜朗大会組織委員会会長は、「五輪のためにはもっと電気が必要だ。原発が動かないのであれば五輪を返上するしかない」といった趣旨の発言をしました。
 そう、原発とオリンピックは密接に繋がっているのです。
柏崎刈羽原発の再稼働に必死なのは、オリンピックのため。
リニア新幹線を通すためでもあったのです。
そして何より、今からでもオリンピックは返上可能ということです。

2014年9月20日に文京区民センターで開催された、
第4回希望政策フォーラム「どうする!?東京オリンピック」

 とにかく住民が「監視している」というプレッシャーを為政者にかけつづけることが、もっとも効果的。
 お金の使途だけでなく、野宿労働者の方々の追い出し、精神に障がいがある方に対しても含めさまざまな人権侵害が出てくる。常に弱い方々の立場に立って監視をつづけることが大切。

 江沢正雄(オリンピックいらない人たちネットワーク代表・草木染め職人)さんから、長野の体験に基づいた具体的なお話をご紹介します。


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◆長野オリンピックは、半世紀越しの悲願だった!?

 長野冬季オリンピック開催が決まったとき、私は、オリンピックに対して反対の意見や批判も含めいろいろな声が、長野県内からもたくさん出てくると思っていました。ノルウェーのリレハンメル冬季大会(1994年)にしても、フランスのアルベールビル冬季大会(1992年)にしても現地では、いろいろな声が出ていました。ところが長野は、「県民の総意、悲願」とくくられてしまいました。

 実は1940年、東京では、「紀元2600年」という名前で、オリンピックを開催するという話がありました。当時は、夏冬セットで同じ国で開いていたので、東京で夏季をやって、冬には長野でぜひと、長野は候補地に名乗りをあげていました。ところが、戦争でこの東京オリンピックは流れてしまったので、1998年の長野オリンピックは県民の半世紀越しの悲願だということでした。

 その長野が国内候補地に決まったときには、日露戦争以来という提灯行列が行われました。招致に向けた署名活動がありとあらゆる場所で行われ、スキー場に来ているスキー客からも集められたりしたので、県民の数より多くの署名が集まりました。IOCから、長野県には民主主義がないのかという質問も出たそうです。
 とにかく、県議会も全会一致ということでスタートしてしまいました。いろいろな批判の声があがってもいいはずなのに、まったく出なかった。

 招致活動は1986年、バブルの真っただ中に始まりましたが、新幹線を呼ぶ、道路を延ばす……。そして「総合保養地域整備法(リゾート法)」という、日本中の山を削ってスキー場とかゴルフ場とかを造るというとんでもない法律がつくられ、それと相まって新幹線や高速道路の交通網の整備ができたら、長野県は世界で一番のリゾートになるというかけ声でした。

 私たちは最初、ゴルフ場やスキー場の建設などに対して、長野県の自然がこれ以上壊されるのは嫌だということで、一つひとつにいろいろな行動をとっていました。しかし、その背後にある錦の旗が、「オリンピックを長野に呼ぶ」ということであったので、これは反対の声をあげなくてはと考えて、オリンピック反対運動を始めました。

 オリンピックに対して、賛成の人がいても、反対の意見があって当然なはずなのに、反対する奴は一握りの過激な奴だとか、さまざまな言い方をされました。果てには「非国民」と言われました。

 市民にとって、その地域の未来とは何なのか。たった2週間のお祭のためのイベントを10年も20年も前からぶち上げることによって、人びとを引っ張っていく。そのために莫大なお金を使って、さまざまな人権を侵害し、無理難題やっていくのがオリンピックなのだと、長野をみていてわかりました。

 一瞬のお祭りのために、ぶち上げてみんなをひっぱれば誰も文句を言わない。「ブームタウン」という言い方があります。原発をつくるとか、オリンピックなどのスポーツイベントを開催することで行政を引っ張る手法はどこの国にもあるそうですが、そんなことに引きずられてはダメだと思います。

 オリンピックを開くということは、川内原発をはじめとして日本中の原発を再稼働させるということです。「オリンピックのようなイベントをやるには電気が必要です」という話につながります。
 "Fukushima not Tokyo Olympic" でしょう。東京オリンピックなんかより、福島、東北のほうが大事でしょう。


◆情報公開を求めて裁判

 たいへんな反対運動の12年間でした。
 長野県には、環境や財政の問題を含めて、私たちの代わりに裁判をしてくれる弁護士がいなかったので、裁判のやり方を図書館で調べたり裁判所に訊きに行ったりして勉強し、いくつかの裁判を起こしました。

 オリンピック本体の差し止め、競技の差し止め……いくつも裁判を起こしました。その中でもっとも力を入れたのが招致費用についてです。長野ではオリンピックをたきあげるための招致費用25億円の会計帳簿が燃やされました。そこで私たちは公文書遺棄罪で、三百数十名で検察審査会に告発しましたが、不起訴決定が出されました。それに対して、検察審査会に申立も行いましたが、一度も審議が開かれないままに、「不起訴は決まっていました」ということを言われました。最高検察庁に、その発言の真意を調査してくれと申立もしましたが、なしのつぶてのままです。不起訴とすることは最初から決まっていたということが、後からわかりました。

 長野オリンピックの翌年、1999年に、オリンピックはIOCに配るお金の額で決まるというニュースがスキャンダルになりました。長野に世界中のメディアが押しかけ、非国民と言われた私も、外国人特派員協会や記者クラブなどでお話できる機会を持てました。東京は前回(2016年)の失敗した招致活動に150億円を使い、今回(2020年)の招致に75億円を招致つぎ込みました。25億円でさえ帳簿を捨ててしまわなければ困るようなお金の使い方をしたというのなら、東京はどうなるのでしょう。

 帳簿の情報公開を求める活動を一生懸命しました。県の職員が、もう役所には来ないでくれと言うくらいに。とにかく、市民・県民の税金を使ってオリンピックを呼んでおいて、その税金の使途を明らかにできないというのはおかしい。

 ところが、その公開を求めたら、結局燃やしてはいなかったという話になりました。
 その1年後の2000年に、田中康夫さんが知事になり、「週刊朝日」が帳簿の一部をすっぱ抜きました。インスタントコーヒーに入れる角砂糖代金百何十円とかいう領収書などが一部だけ公開されました。

 田中知事は、帳簿が捨てられたのはおかしいとして、「長野県調査委員会」を立ち上げました。私たちは嫌がられるくらいに情報公開請求をしても出てこなかった資料が、その調査の過程でたくさん出てきました。

 また裁判の中でも、県側から新しい文書というものがたくさん出てくる。公文書公開請求しても該当する文書はないといっていたものが、県側に都合のいい文書であれば、実はあったといって出してくる。このままいけば特定秘密保護法が施行されてしまいそうですが、そんな法ができなくても、為政者に都合のいい文書は作成して、都合のわるい文書は作成しないわけです。

 東京オリンピックに反対する「反五輪の会」の方からいただいた資料の中にも、新国立競技場建設のために、近くの霞ヶ丘都営アパートの住民に対して立ち退くよう通告した関連文書の中で、文書の作成の日付だけは記してあるけれども、作成者の氏名がない文書があるということが書かれていましたが、そういう文書が裁判の過程の中で出てくるんですね。

 もう一つおかしなことがあります。税金の使い道については、通常、監査委員会が監査をしますし、議会も決算をチェックします。けどオリンピックについては、県議会はその機能を果たしませんでした。東京も同じことになるのではないかと危惧しています。

 東京は不幸なことに、オリンピックの招致に対して反対の声を都議会ではっきりとあげられたのは福士敬子さん(元都議)だけでした。国内招致を最初に争った大阪では、反対の議員の方が複数いましたし、横浜市議会でも6人の議員が反対しましたが、いったい都議会はどうなってしまっているのか。

 とにかく、まずは徹底的に情報公開請求をすることです。田中知事が立ち上げた調査委員会では、驚くべきことが次々と出てきました。私たちは監査請求をしようと裁判を起こそうとしていたのですが、なんと本来は監査をしなければならない監査委員会が県のオリンピック推進の担当部署と一緒に会議を開いて、「反対の連中から監査請求が出るけどどうしよう」と話しあっていたことが分かりました。監査委員会と行政が一緒になって、何とかうやむやにしようとしていた。そんなことがいまの世の中で通じるのかと思いましたけどね。

 東京都の招致委員会の中には法務省も入っていますし、各行政機関──長野の場合は老人会から山岳会まで──ありとあらゆる団体が参加しています。

 閣議了解で、既存の施設を使って簡素なオリンピックにするということになったようですが、いざ動き出したらどんどん豪華な設備になっていくことと思います。IOCがシャワーをつけろだとか、いろいろ注文をつけてきたり、結局、ものすごい数字になっていきます。


◆競技選手はたった50人足らずのリュージュ・ボブスレーに100億!

 例えば長野では、リュージュ・ボブスレーという競技がありますが、その競技場を当初は20数億円くらいで造る予定でしたが、結果的には100億かかりました。

 長野オリンピックの場合、競技場の建設には結果的に当初予算の3倍のお金がかかりました。だから東京にはいま4000億円の準備金を積み立ててあるから十分まかなえる、都民に迷惑をかけないと言っていますが、そんなことはまったくアテになりません。

 本来であれば、オリンピック全体の計画が示されて、その建設資材だってどこからもってくるかも明らかにして進めるべきです。長野では明らかにされませんでした。

 選手はたったの50人いるかいないかです。その50人のために新しい施設を要求しましたが、その後、競技はあまり行われていません。100億円かけてつくった施設に管理人がたったひとりで、冬も雪かきをしないでいます。

 ちなみに、2009年にアジアではじめて、「リュージュ アジアカップ大会」というのを開催したら、参加したのはたったの4カ国。おまけに怖いと言って棄権した国があって、ほとんど滑りませんでした。

 滑り台にして観光地にしようと思ったら、危険すぎて公園にもできない。コースは人工凍結方式でアンモニアガスで冷やしているので、極めて危険なアンモニアが0.8トンもある。

 アンモニアは誘爆性があるのでアルベールビルでもその安全性が問題になりました。ですので、施設の図面を情報公開請求したのですが、「テロ防止のため」という理由で開示されませんでした。

 東京オリンピックについては、改善を要求するのではなくハッキリと「NO」と声をあげてほしいと思います。もちろん、それですぐに止まるわけではありませんが、できることはなんでもやって止めていただきたいと思います。

 その一つは、招致から建設までオリンピックに使われるお金を別会計で、何に使われたのかを、住民がきちんと監視することです。関連の文書には最低限通し番号をつけて中抜けされないようにチェックすべきです。通常、年度をまたいで行われる事業に冠しては、年度ごとの予算があらかじめ示されるものですが、オリンピックになるとそんなことはチェックもされません。

 予算がどんどん膨らんでいくと、結局最後のシワ寄せは皆、弱い人たちに来ます。4000億円というのはものすごいお金です。長野でオリンピックを開いたとき、長野県の年間予算は約7000億円でした。競技施設建設の半分は借金でしたが、結果的には、借金が5000億円近くになり、オリンピックが終わった翌年には1兆6000億にまで膨らみました。

 オリンピックで東京が活性化すると言いますが、これ以上に東京の活性化と言われてもおかしな話ですね。経済的なインパクトを与えると盛んに言われています。長野の場合は、さまざまな経済研究所が試算して、1兆5000億の投資で2兆ウン億の経済効果がある、1.5倍の波及効果と言われました。しかし結果的には、県と長野市に1兆5000億を上回る負債が残ってしまいました。

 東京も、関連道路などの整備を含めると、1兆円、2兆円というレベル、いやそれ以上に嵩んでくると思います。

 しかし、東京直下型地震も危惧されていますし、差し迫った超高齢化社会への対策も必要です。もっともっとお金を使わなくてはならないことがあるわけです。それにお金を使わずに、たった2週間の祭りのために、莫大なお金を注ぎ込むのはおかしな話です。

 パラリンピックも同時に開催されます。身体に障がいのある団体や個人の中で、オリンピックをすれば、障がい者が住みよい街になるのだからいいじゃないか、ぜひやってくださいという意見もあります。それを100%否定するつもりはありません。けど、身体の不自由な方がいらして、現状、自由に交通機関を利用したりすることに不便があるのであれば、直接その方たちが使いやすいまちづくりにお金を使うことのほうがよっぽど効果的です。それは勘違いしないでほしいと思います。

 オリンピック原則で、「人間の尊厳」「平和の祭典」と盛んに言われますが、本当に世界の平和を実現したいのなら、そのためにお金は直接使えばいいと思います。たとえば世界中には1億個の地雷が埋まっています。その取り出しだけでも大変なお金がかかりますが、オリンピックのお金をあてればいい。パレスチナ救援にしても、エボラ出血熱にしても、東京オリンピックにつぎ込む金があるのなら、直接援助でカバーできるものがかなりあります。


◆オリンピックで国民統合

 とにかく、今回のオリンピックというのは、これまででもっとも危険なムードの中で行われようとしている、国民統合のためのイベントです。憲法改正の動き、集団的自衛権行使の容認、そして特定秘密保護法の施行。さらには、教育委員会を行政のコントロール下に置こうという動きもあります。原発を再稼働・輸出させようとも企んでいます。

 それから沖縄県知事選が迫っていますが、辺野古の新基地建設についても、(あれだけの反対の意見があるのに)既成事実を積み上げて突っ走ってしまえというのが安倍晋三の方針です。東京でニタニタとオリンピックを待っていたら、そういったことはみんな、OKだという意思表示になってしまいます。

 宇都宮さんにはぜひ、オリンピック反対をかかげて次回の都知事選に出馬してほしいです。
 私の連れ合いは1989年の長野市長選に出ました。その市長選には、はオリンピックを推進していた現職市長が再選をかけて出ていました。それからもう一人、共産党の方が民主的なオリンピックを、といって出られました。しかしそうではない、「反対」の立場の候補者を立てる準備していました。ところがその方が直前になってダメになってしまった。そうして私の連れ合いが出ることになった。

 残念ながら当選はできませんでしたが、全国の原発反対、ゴルフ場反対の市民グループの方から100万円のカンパが集まり、11パーセント得票しました。ですから、宇都宮さんだったら、60%くらいとれると思います。ついてくる人はいます。

 ところが選挙の時、「オリンピック反対派のポスターは印刷できない」と印刷業組合から言われて、長野県では選挙ポスターを印刷することができませんでした。それで東京で印刷しました。私たちはそんなに悪いことをしているつもりはなかったのですが、とってもいやな気分でした。


 東京に公共事業を集中させたら、東北の工事は遅れますし、資材費が高騰することは明らかです。長野のときは、外国からの労働者が建設に携わっていました。ところが、オリンピックの前になったら、「ホワイトエンジェルス隊」という名の防犯組織もつくられたりして、「環境浄化作戦」の名目で不法労働者も含めてを追い出しをはかりました。

 安倍首相はこれまで最長3年だった在留期限を5年間に引き延ばしました。オリンピックを目指して海外からの労働者を入れようとしているんですね。おそらくオリンピックが近くなったらまた、排外的な動きをすると思います。

 新国立競技場建設に伴うアパートの住民の追いだし、野宿労働者の追い出し。ある意味での環境浄化作戦は始まっています。日本というのは、玄関にだけ立派な華を飾ろうという国なので、本当にやりかねません。「オリンピック返上」の声をあげないと、「テロ防止」という名目を彼らに与えて、いろいろな形で住民監視が進みます。

 野宿労働者の追い出し、公園からの排除……。今回のデング熱の騒ぎだけでも、公園からの追い出しは始まっています。マンホールをあけて爆弾はないかとか、長野の場合は、雪の中の爆発物を探す装甲車まで導入しました。

 ぜひ反対の声をみなさんで上げてほしいと思います。このムードの中でのオリンピック開催は、「国民の意識統合」に使われます。それは安倍にYesを与えてしまうことなんです。安倍に対してNo、原発再稼働を認めないと言うには、このオリンピックにもNoとハッキリと声をあげてほしいと思います。

 原発とオリンピックは関係ないという人がいますが、そんなことはありません。
 東京から長野を通って名古屋まで1時間で行けるリニア新幹線建設の動きがいま、あります。京都・大阪まで伸ばそうとしています。

 実は長野オリンピックの年に、柏崎から山梨の実験線がある大月まで、100万ボルトの高圧線が通されました。つまり、リニア新幹線は柏崎原発が稼働しない限り走らせることはできませんが、準備は着々と進んでいます。今回のオリンピックは、原発を稼働させるということと連動しています。


◆オリンピックで生協の配達も休止に

 それから東京湾はただでさえ米軍基地、自衛隊を含めてほとんどが人工海岸で囲まれてしまっています。自然の海岸線はほんのわずかしか残っていません。もっと自然保護の話が出ないのか、とっても残念です。

 施設の後利用についても、皮算用しかなされていないと聞いています。長野の会場はその後結局、アメリカンドラッグのフェアなどが開かれただけでほとんど利用されていません。統一教会がスピードスケートの会場で集団見合いを行おうとしていたということもありました。

 2020年までの6年間、誰が煽るかといったら、まずはNHKが煽ります。オリンピックを推し進めるNHKなんかにはお金を払いませんということを、はっきりと言って、テレビを買うときはNHKが映らない、お金を払わなくていいテレビを買ってください。

 住民が「監視している」というプレッシャーをかけつづけることが、もっとも効果的です。お金の使い方のチェックももちろんですが、野宿労働者の方々の追い出し、精神に障がいがある方に対しても含めさまざまな人権侵害が出てきます。常に弱い方々の立場に立って監視をつづけることが大切です。

 日常行われている工事も、オリンピック期間中は休止されますし、生協の配達も休止させられます。そんなことも含めた人権侵害について、いまからハッキリとNoと示していくべきだと思います。

 私たちは日常を暮らしているわけで、毎日歩く道が少し便利になったらいい、暮らしやすいまちにしたいと思い、広い意味では毎日静かに暮らしたいと思っているのに、そのお祭りのために身ぐるみ剥がされていくような気がとてもします。邪魔者のようにどこかに追いやってしまうことに、とても嫌悪感を覚えます。

 平和な社会をつくるためだったら、できることはほかにいくらでもあります。例えば安倍憲法9条を骨抜きにしようと躍起になっています。憲法9条を世界遺産にしようと声をあげた人がいるのに、そういう声を封殺して、平和の祭典だ、何が平和の祭典でしょう。

 カラフルな民族衣装を着てダンスして、空からなんかが落ちてきて、花火がボンとあがる。これが平和の祭典だというワンパターンが続いていますが、そんなことが平和の実現でしょうか。

 また長野ではオリンピックを開くことで、「健康の向上」「教育の向上」につながるとも言われました。けど、長野県民は健康になりませんでした。健康保険料の支出を見れば明らかです、支出は増えています。東京でもそこら中走っている人がいますが、健康にはなっていませんよね(笑)。オリンピックをしても、地域は健康の増進にはつながらないということをぜひ、覚えておいていただきたい。

 長野では子どもたちに向けて副読本もつくられました。斎藤英四郎という組織委員会の会長がつくりました。何が書いてあるのかと思ったら、「今回のオリンピックは自然と共存しています」「1本木を切ったら2本植えましょう」そんな程度のことしか書かれていない。あとはオリンピックは素晴らしいモノです、それだけです。

 「FUKUSHIMA, not TOKYO OLYMPICS」と、福島の方たちと一緒に声をあげてください。


(2014年9月20日、第4回希望政策フォーラム「どうする!?東京オリンピック」より)

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2016年07月02日

Report「国家戦略特区は、何を狙うか。」



どうなる!? 東京の暮らし
医療制度は?
雇用が変わる?
国家戦略特区って何?

奈須りえさん(市民シンクタンク まちづくりエンパワメント代表)と郭洋春さん(立教大学教授)をお迎えして開催された「第3回希望政策フォーラム 国家戦略特区は、何を狙うか。あなたの暮らしが投資家のものに!?」
http://utsu-ken.seesaa.net/article/396382845.html

国家戦略特区によって日本はどうなる?
ウソのような本当の話!

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◆Part1◆問題提起

「国家戦略特区とは何か?」(奈須りえ)

 私は大田区で、10年ほど、昨年の夏まで区議会議員をしていました。国家戦略特区による規制緩和は2003年、小泉改革のときにスタートしましたが、その地域に大田区が設定されていましたので、以来ずっと追いかけてきました。

 東京23区は地方交付税を受け取らない不交付団体で、財政が豊かだとされていますが、特別養護老人ホームは足りていませんし、待機児童も多く、その財政は区民の生活に還元されていません。

 国家戦略特区はTPP(環太平洋連携協定)とセットのような形で、大企業──特に外国企業──に利益が還元され、この傾向を一層強めるものです。TPPはあくまで条約なので、そこで国際的に合意した内容を国内で実施するためには法律の整備が必要ですが、そのための役割を国家戦略特区が担っていると私は思います。

 国家戦略特区は全国6つの地域(東京圏、関西圏、福岡市、沖縄県、新潟市、兵庫県養父市)に指定され、東京都内では23区中9区(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、渋谷区、品川区、大田区)が指定される予定です。都のプロジェクトは、「東京発グローバル・イノベーション特区」という名前がつけられています。

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(東京都アジアヘッドクォーター特区HPより)


 既に小泉政権が構造改革特区(2003年)、菅政権が総合特区(2011年)という政策を行っていますが、その二つは事業の主体が地方自治体だったのに対し、今回は地方自治体に加えて、民間事業者も事業主体になることが可能で、より一層、企業優先の政策が行われると考えられます。


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 安倍首相は特区やTPPなどの規制緩和で既得権益の岩盤を突き崩すと言っていますが、その安倍首相の言う岩盤によって守られているのは、法に守られた私たち普通の市民です。労働の規制などがなくなることで私たちの暮らしは脅かされ、最低賃金以下で働く外国人労働者がやってきては酷使されます。結局、労働者得をする者は誰もおらず、安い人件費で労働者を働かせる企業だけが得をするようなことになりかねません。

 そうした労働の規制緩和などが企業から見て「うまくいった」とみなされれば、それは特区にとどまらず全国へ広がっていく可能性があります。しかもラチェット条項(いったん進められた規制緩和を逆戻りさせることを禁止する条項)によって、規制を戻すことができなくなる、後戻りのできないのがこの特区なのです。



○「経済成長に国家戦略特区が用いられる意味」(郭洋春〈ヤン・ヤンチュン〉)

 まず、国家戦略特区とセットとしてのTPPの話で言えば、安倍首相は農業が8兆円しか儲けていない(全体の出荷額が8兆円しかない)から切り捨てるという方向で進んでいます。しかしTPPの経済効果は3.2兆円とされていますので、差し引きマイナスです。だったらやめてほしいものです。

 国際的に見れば、こうした経済特区のような制度は、高雄(台湾)、深せん(中国)のように、地方のまちを都市化させていく時に導入されたのであって、東京のような巨大都市に導入するというのはおかしなことです。一極集中している東京を特区に指定するということは、集中の度合いを一層進めるものです。

 中曽根政権が進め、小泉政権が推し進めたのが新自由主義的政策です。これは民間活力といった言葉で、公的、民主主義的な規制を企業にとって都合のいい形に変えていく政策です。国鉄をJRにし、郵便局も民営化し……と少しずつ進められてきましたが、今回の特区はこれをありとあらゆる分野でやろうとするものです。

 先日インターネットのサイトに、アメリカで盲腸の手術をしようとした人が、約500万円請求されたという話が出ていました。医療制度や健康保険制度が規制緩和されると、日本でもこういうことが起こりうるのではないかと思います。

 既に米韓FTA(自由貿易協定)を結んでいる韓国では、法律が米国の大企業が活動しやすいような形に次々と変えられていっています。例えばソウル市は、学校給食への遺伝子組み換え食品の使用を条例で禁止していますが、それでは遺伝子組み換え食品を使えなくて困ると言って、アメリカ企業はその条例撤廃を要求してきています。

 日本に置き換えてを考えてみると、国家戦略特区で一旦認められてしまったら、特区ではない地域にまでそれが応用されてしまうのではないか。国家戦略特区を東京や大阪などの大都市で実施することで、国民を慣れさせて、ゆくゆくは韓国と同じく全国で、米企業が活動しやすいような仕組みに変えていく。本来行政が行うべきサービスまでもがビジネス化されていくということになるのではないかと思います。



○「東京が『憲法番外地』に?」
宇都宮けんじ

 第一次安倍政権の際、彼らは「残業代ゼロ法案」を出しましたが、反撃にあってそれは潰れました。「企業が世界一活動しやすい国」というのは、企業に有利で、労働者にとっては地獄の制度を作るということです。国家戦略特区は、いわば解雇特区という形で労働者を守る規制をなくすことです。ワーキングプアーをより一層増やすことになるでしょう。

 安倍首相はまた、労働者派遣法を改悪しようとしています。派遣法ではいま、専門の26業種だけが無期限で派遣雇用することが認められていますが、その26種の枠をはずして、全ての業務を対象に無期限で派遣ができるようにしようとしています。そうすると、あらゆる職場が派遣従業員ばかりになってしまいます。これは特区とは別に進めていますが、同じような規制改革として捉えることが必要です。

 非正規社員は小泉首相の時代から一気に増えて、現在、働く人の3人に1人が非正規雇用となりました。非正規雇用は正社員よりもずっと収入が低く抑えられています。ワーキングプアーが1000万人を超す状況が7年連続して続いています。

 同じように、民間企業の公教育への参入が進むと教育の格差も広がりかねませんし、容積率の制限が緩和されることにより都心にもっと高層ビルが建てられて、中小企業や商店街は寂れていく。

 そして農業も切り捨てられていきます。地方だけでなく、東京でも練馬や三多摩では農業に従事している方が多くいます。八王子で政策フォーラムを行ったとき、「農業を守らなければ三多摩は守れない」と強く訴える方がいましたが、そのとおりだと思います。安倍政権はいま、小規模農業が維持発展できるような制度ではなく、潰れていくような政策を進めようとしています。

 憲法で保障された人権を守ることは、権力の側にいる者の、主権者に対する最低限の約束です。しかし憲法の文言を変えずに人権を侵害する政策を押し進めていく、それが戦略特区に他なりません。ですから、私たちはちゃんと監視していかなくてはなりません。



◆Part2◆質疑・パネルディスカッション


司会 内田聖子(NPO法人アジア太平洋資料センター事務局長):
 みなさんこんばんは。質問をいただきながら、できるだけ議論を深めていきたいと思います。
 先日、虎ノ門ヒルズ──都内で2番目に大きいビル──ができましたが、ここには海外の企業やアメリカのハイアット系の高級ホテルが入っています。開発したのは森ビルですが、国家戦略特区のような形で規制緩和が進んでいけば、このようなビルをさらに建てていきたいと意気込んでいます。
 そしてオリンピック。2020年までの間に、国家戦略特区とオリンピックという二つの起爆剤をテコに、東京の風景、そしてお金の流れも変わるのではないかと私は危惧しています。私たちの暮らしにも強い影響があります。


●─── 外資を呼び込んで得た利益は都民や国民に還元されずどこにいくのでしょうか。医療や福祉に国家がその利益を還元していないというデータは、どこを見ればわかりますか?

郭:韓国では、外資企業を呼び込むときの条件として、5年間は無税で、得た利益も自由に本国に還元してよいとなっています。それは多くのアジアでの特区で行われていますので、日本でもたぶん、同じことになると思います。利益が日本の経済や公共的なことに還元できるかというと疑わしいですね。

奈須:東京都の場合で言うと、税金は100%減税され、利子補給(企業が借り入れたお金に対する利子への補助)もある。「都民に対して還元されるの?」と訊いたら、「6年目以降は還元されるかも」と言われました。でも東京都の人口は2020年以降は減ると予測されています。それまでに稼ぐだけ稼いだら、あとは知らないというのが大方の考えだと思います。そういう意味では、還元されるかどうかは、全然保証されていません。


●─── 国家戦略特区ではいま、職を持つ人も早期退職を迫られるのか? なぜ、こんな無法地帯の国家戦略特区が許されてしまうのか知りたいです。

宇都宮:早期退職を迫られるかどうかはわかりませんが、昨年〈2013年〉の労働契約法の改正で)5年以上勤めた有期雇用労働者は、無期雇用に転換することが可能になりました(無期労働契約への転換)。すると、5年で雇い止めにするというような雇用主が出てきて問題になっています。この雇用止めの問題で労働組合などを作って、闘っているところがあります。
 先日、大飯原発の運転差し止めの判決が出ました。原発がなくなると電気代が高くなると言うが、多くの人の生存の問題と電気代の問題を比べるというようなことは許されないと、判決では言っています。豊かな国土に根付いた生活をしているのが国富であって、それが取り戻せないようになるようなことはおかしい、国民の基本的人権を侵害するような政策だと。いまの安倍政権自体がまさに基本的人権を無視するような政策ばかりを出していますが、これを阻止するためにはみなが声をあげていかなければならないと思っています。


●─── 医療に関する多くのことが問題になっています。神奈川県の特区で、医学部以外の卒業生であっても、メディカルスクールを出れば診察を行えるようにするとか、外国語で診療することができるようにしていくと言っていますが、医師会からは反対の声はあがっていますか?

奈須:医師会は反対しています。ただ実際に、個々の医師になると判断は違うと思います。自由診療になれば経営が楽になるんじゃないかと考える医師もいます。とはいえ、医薬品メーカーなどだけが潤うだけで、必ずしも医師が儲かるわけではないといった意見もあります。

宇都宮:TPPに関しては、同じような危険があるということで医師会も反対しています。医師会の前会長が、いまはTPP国民会議の代表をされています。


●─── 私たちの未来を見るために、いま韓国ではどうなっているかお聞きしたいです。

郭:今年の1月に韓国の医師会にあたる医師協会が、全国でストライキを起こしました。それは、この間進められてきた規制緩和によって、お金のある大病院や総合病院がますます膨れあがり、個人病院は潰れてしまうのではないか、企業と同じようなことが起こってしまうのではないかと危惧した反対運動です。

 韓国では一昨日、統一選挙が行われました。韓国では、教育行政については別途財源を確保していて、人事権も別です。日本の教育長にあたる教育監と教育委員も直接選挙によって選ばれます。その教育監に今回、全教組(全国教職員労働組合)の進歩的な人が当選しました。いままでとは違う動きが起こっているのかなと思います。

●─── 都議会の人たちはどのように考えているのでしょうか。そしてもうひとつ、東京で指定された9つの区の住民がいまからできることは何か?

奈須:残念ながら、この課題が都議会で問題になっているという話は聞いていません。特区をどんどん進めてほしいといった声のほうが多くあるようです。また区議会でも、ほとんど話題にはなっていないというのが現状です。
 ただ憲法95条では、一区域(地方公共団体)に適用される法律には住民投票が必要であると定めています。その地域だけで医療保険料が上がったり、ある地域だけ解雇されやすくなるというようなことを阻止するには、住民投票を実施するのがよいのではないかと思います。

 ただ、その区在住ではない人も病院で受診しますし、外からその区の企業に通勤してくる人もいます。そういう意味では、「特区」というのは意味がなく、みんなで考えないといけない問題だと思います。

内田:都の、特区を取り扱う部署に電話をして、「都民に説明するような機会については考えていますか?」と聞いたら、びっくりしていました。そんなこと考えてみたこともなかったと。行政としての説明責任のようなものも吹っ飛んでしまっているんですね。

 選ばれた区の責任者にはもちろん説明をしているということですが、その区がそれぞれの住民に説明をするかどうかについては都は感知していないとのことです。私もびっくりしましたし、それを監視していく必要があると思っています。
 では、最後におひとりずつ、おねがいします。


郭:東京都では9つの区だけが指定されたということは、9つの区が選ばれたとも言えますが、残りの14区については、ネガティブな意見もあります。東京都はもともとダメだしをくらって舛添さんが呼びだされて、「ちゃんとやれよ」と言われています。

 東京は日本の首都ですので、「特区」となることには大きなリスクを抱えています。財政的な負担もありますし、そのための人材確保も、国でなく都が行わなくてはならない。それは相当な負担ですので、積極的ではなかった。だから、結局、引き受けたのは9つの区だけとなったわけです。東京都も一枚岩ではない。そんなにうまくいかないのではないかと思っています。

 外国人ための特区と言いますが、外国企業はたいして日本に来たがっていません。人件費は高いし土地も高い、そして何より英語が通じない。日本にくる理由がありません。日本人を雇わずに英語の通じる外国人を雇うのであれば、日本の雇用は増えません。おかしいんじゃない? って、だんだんとボロが出てくるのでははないかと思います。

 東京都は、やると大変だけどやらないわけにはいかないという、結構厳しい立場に置かれているのではと思います。

内田:原発が破綻するかもしれない日本に、安心して外資が来るとは思えないという声もありますね。

郭:ブラジルではサッカーワールドカップが開かれていますが、それと同時にデモが起こっています。治安は大丈夫なのかと日本では報道していますが、東京でオリンピックが開かれる2020年に、果たして原発の問題は落ち着いているのか。そうでなければ外国の人は来てくれないですよね。

 でもいま、東北の復興支援よりも東京のゼネコンに、カネはつぎこまれています。東北は置いていかれています。復興もできてないのにオリンピック? 近づけば近づくほど、後回しにした問題が大きくなって、世界中から、「日本は何やってんだ?」という声が大きくなると思います。

宇都宮:東京で何がどう行われているのかは、ウォッチしなくてはなりません。都議会で取り上げてもらうことは重要です。私たちはその議論を視ていかなくてはいけない。「特区」には中央区と江東区も指定されていますが、築地の移転と開発、そして特区構想。それらをあわせて問題にすべきだと思います。

 私たちはカジノの解禁・推進についても反対していますが、安倍政権はオリンピックに向けて「カジノ特区」をつくろうとしています。公営ではなく民間の業者がやろうとしていて、ラスベガスでカジノを営業している業者が虎視眈々とねらっています。

 ギャンブル依存症が増えますし、犯罪なども増えていくのではないか。カジノは人の不幸の上になりたっています。どうぞ関心をもって参加してください。私たちはこういう問題を知る、情報をつかむということが必要です。

奈須:3つお話します。まず、地方分権とは何だったのか。それは、私たちが身近な自治体に自治権を与えるということではなく、企業にそれを与えようとしたということだと思います。これから行われるのは権限の委譲です。これまでは行政が決めたことを民間に委託するという規制緩和だったのが、インフラをどうするのかといった権限まで、民間に移譲されるところに進もうとしています。

 東京ではいろいろな開発が行われようとしています。リーマンショック以来、お金の行き場がわからなくなっていて、マネーゲームのネタが必要なんですね。それが再開発だったりオリンピックだったりするわけです。確実に儲かるような仕組み──都心の一等地で、絶対に投資したら儲かる──をつくっています。期間限定で5年間、東京で儲けるだけ儲けて、その後、日本、東京に再投資はないでしょう。

 これ以上減税を続けたら日本は疲弊します。統治機構も疲弊し大きく崩れ去っています。住民の権利がないに等しい状態です。住民自治とか民主主義とは何なのかということを確認していかなければならないと思います。


内田:情報がたくさんありすぎてわかったようでわからないという感じもあると思いますが、どうぞ継続してこの問題を一緒にに考えていただきたいと思います。本日はありがとうございました。


(2014年6月6日、第3回希望政策フォーラム「国家戦略特区は、何を狙うか。あなたの暮らしが投資家のものに!?」より)


posted by チームうつけん・ナオカ at 00:00| 政策の現場から | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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